皆さんこんにちは!今回は、圧倒的な画力と衝撃的な展開で読者を恐怖のどん底に突き落とす、本田真吾先生のホラー漫画を特集します。
本田先生といえば、かつては熱血スポーツ漫画を描かれていましたが、2010年代からはパニックホラーや心理サスペンスの旗手として大活躍されています。今回は、そんな先生のホラー作品を発売日順に並べ、それぞれの見どころをたっぷりとご紹介します。
本田真吾先生のホラー作品ラインナップ
まずは、今回ご紹介する10作品を一覧でチェックしてみましょう。
| 作品名 | 刊行開始 | 恐怖のテーマ |
| ハカイジュウ | 2010年 | モンスターパニック |
| 切子〜キリコ〜 | 2015年 | 学校怪談・怨霊 |
| 切子 殺 | 2018年 | オフィス・スラッシャー |
| 彩子 黒 | 2018年 | 都市伝説・SNS |
| 彩子 白 | 2018年 | 心理的恐怖・前日談 |
| その男、SAiKOにつき | 2018年 | 社会派・制裁サスペンス |
| 巨竜戦記 | 2019年 | ダークファンタジー |
| 終園地 | 2021年 | デスゲーム・家族崩壊 |
| サイコ×パスト 猟奇殺人潜入捜査 | 2021年 | タイムリープ・捜査 |
| ピエロマン(原作担当) | 2022年 | 心理サスペンス・無自覚な悪意 |
1. ハカイジュウ(2010年〜2017年完結)
本田先生がホラー漫画家としての地位を不動のものにした記念碑的な作品です。それまでのスポーツ漫画で培われたダイナミックな筆致が、「未知の生物による破壊」という形で爆発しています。
本作は、東京・立川市を舞台に、地中から現れた巨大な「特殊生物」に蹂躙される人々の生存競争を描いたパニックホラーです。最大の魅力は、先生の圧倒的な画力で描かれる異形の怪物たちの造形美と、日常が瞬時に地獄へと変わる破壊描写にあります。物語は第1部と第2部に分かれており、サバイバル劇からディストピアでの戦いへとスケールアップしていきます。特筆すべきは「武重先生」という強烈なキャラクターで、極限状態で剥き出しになる人間の狂気が、怪物以上の恐怖として読者に襲いかかります。単なるモンスターものに留まらない、人間の本能とエゴを鋭く抉り出した傑作です。
2. 切子〜キリコ〜(2015年短編)
パニックホラーの旗手が、日本の伝統的な「怨霊ホラー」に挑んだ衝撃作です。廃校という閉鎖空間で繰り広げられる惨劇は、Jホラー特有の不気味さと本田流のアクションが見事に融合しています。
卒業から17年後、廃校に集まった元同級生たちに届いた差出人不明の同窓会案内。そこには当時亡くなった少女「奥村切子」の供養という不穏な目的がありました。本作の魅力は、じわじわと追い詰められる恐怖感と、中盤から一変する物理的な破壊演出のギャップにあります。かつて愛されていたはずの切子が、実は壮絶ないじめの被害者であり、同級生たちが自分に都合よく記憶を書き換えていたという真相は、読者に深い心理的嫌悪感を与えます。巨大化した切子が校舎を破壊する展開は圧巻で、人間の身勝手さと「忘却」という名の罪をテーマにした、1巻完結とは思えない濃密な恐怖が味わえます。
3. 切子 殺(2018年短編)
前作『切子』の怨霊が、今度は舞台を現代のオフィスへと移して暴れまわる続編です。ブラック企業を舞台にした本作は、現代社会の闇を切り裂くスラッシャーホラーとしての側面が強まっています。
東京での新生活に期待を膨らませていた主人公の美波ですが、就職先はパワハラとセクハラが横行する地獄のような職場でした。そこへ現れる異形の怨霊・切子。本作の面白さは、理不尽な上司や社員たちが次々と無残に殺されていく過程に、ある種のピカレスク的なカタルシスを感じてしまう点にあります。本田先生が得意とする残酷描写はさらに進化しており、無機質なオフィスビルが血の海へと変わる視覚的衝撃は強烈です。しかし、切子の殺意は止まることを知らず、事態は誰も予測できない最悪の結末へと加速します。都会の孤独と抑圧を背景に、日常の脆さを突きつけるアーバン・ホラーの佳作です。
4. 彩子 黒(2018年短編)
スマートフォンとSNSが普及した現代ならではの恐怖を描いた『彩子(サイコ)』シリーズの「現在」を描く物語です。デジタルの冷たさと肉体の損壊が同居した、現代版の都市伝説といえます。
「どんな質問にも答えてくれる」という謎のアプリ『SAiKO(サイコ)』。便利さと引き換えに、彩子のアバターが画面を越えて現実を侵食し、若者たちの命を奪っていきます。本作の魅力は、承認欲求に駆られた人々がアプリに依存し、破滅していく様を冷徹に描いている点です。実体を持たないはずの彩子がいかにして物理的な破壊をもたらすのか、その謎解きとSFパニック的な要素が絡み合い、息をもつかせぬ展開が続きます。画面の中の彩子が、現代人の覗き見趣味や無責任な好奇心を映し出す鏡として機能している点も、非常に興味深く恐ろしいポイントです。
5. 彩子 白(2018年短編)
『彩子 黒』の前日談として、呪いのアプリ誕生の謎と、そのモデルとなった一人の少女の悲劇を描いた作品です。「黒」がパニックなら、「白」は心を抉るような心理的恐怖に特化しています。
容姿端麗な少女・斎賀彩子が、周囲の羨望や身勝手な欲望に晒され、いかにして壊れていったのか。その過程は静かで重苦しい空気に満ちています。彩子を救おうとする者のエゴや、彼女自身が抱える深い孤独が丁寧に描写されており、読者は彼女が怪物へと変貌していく姿に悲劇的な納得感を得ることになります。美しい少女が異形へと堕ちていく瞬間を描く筆致は、まさに本田先生の真骨頂。ホラーとしての怖さだけでなく、切ない青春の破滅物語としても完成度が高く、「黒」と合わせて読むことで、恐怖の深淵に潜む「悲しみ」をより深く理解できる構成になっています。
6. その男、SAiKOにつき(2018年短編~クローズリスペクト内~)
本作は、伝説的不良漫画『クローズ』のトリビュート企画「クローズリスペクト」の一環として描かれた、非常にユニークなクロスオーバー作品です。本田先生の代表作同士が融合した、ファン必見の一作となっています。
物語は、ホラー漫画『彩子』に登場する謎のAIアプリ「SAiKO」を、『クローズ』のキャラクターが手に入れるところから始まります。短編ながらも強烈なインパクトを残します。異色のコラボがもたらす化学反応を、ぜひその目で確かめてください。

7. 巨竜戦記(2019年)
『週刊少年マガジン』で連載された、神話と巨大怪獣を融合させた壮大なダークファンタジーです。本田流のモンスター描写が、神話という大きなスケールで展開されます。
『古事記』のヤマタノオロチ伝説をベースに、突如現代に現れた巨大な竜と、それに立ち向かう少年の運命を描きます。本作の魅力は、現代兵器が通用しない「絶対的な恐怖」としての竜の存在感です。竜の各頭が持つ特殊な能力や、それがもたらす天変地異の描写はページを捲るたびに圧倒されます。少年漫画らしい熱い成長物語の枠組みの中に、本田先生特有の「絶望的な状況」と「凄惨なバイオレンス」が同居しており、ファンタジーの皮を被った極上のホラーアクションとして完成されています。神話という逃れられない運命に抗う人間の意志が、血飛沫舞う戦いの中で熱く描かれます。
8. 終園地(2021年短編)
「家族」という最も身近な共同体の崩壊を、不気味な遊園地を舞台に描いたパニックサスペンスです。誰もが抱える「家族の秘密」を物理的な恐怖に変換した秀逸な設定が光ります。
平凡な父親・健二が家族と訪れた謎の遊園地『Happy Land』。そこは「家族の秘密」をすべて告白しなければ脱出できない、死のアトラクションの入り口でした。楽しいはずの遊園地のアイコンが、次々と殺戮マシンに変わるアイデアの面白さはもちろん、何より恐ろしいのはアトラクションを通じて暴かれる家族の醜い本音です。妻の不倫、子供たちの秘密、そして父自身の罪。生き残るために絆を切り刻まなければならない極限状態は、物理的なグロテスクさを超えた精神的なダメージを読者に与えます。家族という幻想がいかに脆いものかを突きつける、非常に毒の強い問題作です。
9. サイコ×パスト 猟奇殺人潜入捜査(2021年〜)
現在連載中の本作は、ミステリー、タイムリープ、そして実録風の猟奇殺人を融合させた、本田ホラーの現時点での最高到達点とも言える作品です。
熱血刑事の五代が、超能力捜査官・飛高の力によって過去の未解決事件に潜入し、被害者の体に入り込んで事件を未然に防ぐという物語。本作の最大の魅力は、潜入先が「非力な子供や病人」といった、犯人から逃げ切るのが困難な立場であることによる究極の緊張感です。実際に起きた事件を彷彿とさせる凄惨な犯行現場と、犯人の歪んだ論理は背筋を凍らせます。刑事としての魂を持ったまま、弱者の体でいかにサイコパスを打ち倒すのか。その知略と執念の攻防に加え、上司・飛高の真の目的など、物語の縦軸にある謎も深く、一度読み始めたら止まらない中毒性があります。
10. ピエロマン(2022年〜2025年完結、原作担当)
本田先生が原作を務め、漫画業界を舞台に「無自覚な悪意」をテーマにした心理サスペンス。自分では気づかないうちに誰かを傷つけている、という誰にでもあり得る恐怖を突いています。
順風満帆な人生を送る漫画家の山村虎時の前に、自作のキャラクター『ピエロマン』に扮した怪人が現れ、周囲の人々を殺害し始めます。犯人の目的は、虎時が過去に放った「無自覚な悪」に対する復讐。本作の怖さは、主人公が悪気なく、むしろ善意で言った言葉が他者の人生を破壊していたという残酷な事実にあります。業界の嫉妬や歪んだ愛が絡み合い、誰が本物のピエロマンなのかを追うミステリーとしても秀逸です。読者は読み進めるうちに、「自分も知らないうちに誰かのピエロマンを作っていないか」と自問自答させられることになります。メタ的な視点も含まれた、現代的な恐怖を描く名作です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。本田真吾先生の作品をこうして振り返ってみると、初期の「外敵からの恐怖」から、近年の「人間の内面の闇」へと、恐怖の対象がより深く、より身近なものへと進化していることがわかります。
どの作品も圧倒的な画力で描かれるため、心臓が弱い方には少し刺激が強いかもしれませんが、その恐怖の先にある人間ドラマや社会風刺には、他では味わえない中毒性があります。未読の作品があれば、ぜひこの機会に「本田ホラー」の世界に足を踏み入れてみてください。ただし、夜一人で読むときは、背後にお気をつけくださいね……。

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